アニメーション美術の第一人者、
小林七郎氏の画集
「空気を描く美術」がようやく手元に届いたが、こっちは言葉の世界に深く出入りする人間だから、当然巻末につけられている、出崎統
(→注た行)や押井守
(→注あ行)の、小林七郎を語るインタビューから先に読ませてもらった。
そしてそのインタビューから浮かび上がってくるのは、小林七郎氏のレイアウトを非常に重視する姿勢で、その徹底振りがなんともすさまじい。あがってきた原図を問答無用で消しゴムで消して直すところから始まるというのだから、いくら職人の世界とはいえ、よくやってこられたなぁと思わずにはいられない。もちろん実力があればこその話なのだけれど。
押井守は非常にレイアウトを重視する監督で、その先鞭をつけたのは、そもそもこの人。
こう言っては何ですが、やはり宮さんなんかはほとんど雰囲気で描いているところがある。ところが、小林さんは違う。小林さんはきちんと理論を踏まえた上でレイアウトを書くんです。そのことが本当に分かったのは、次に「天使のたまご」を一緒にやった時でした。それ以降です。僕も自分なりに我流でレイアウトをチェックしたりしてたのが、三角定規を手放せなくなったのは。
しかしなぜ三角定規なのだろう。もちろんレイアウトに使うのだろうが、このことと望月智充氏のインタビューでの発言が妙に引っかかる。
レイアウトにざっと目を通したとたんに七郎さんが急に怒り出したわけ。こんなレイアウトはダメだと言って。
そのまま完全に説教モードに入ってしまって、もう、レイアウトを七郎さんが一枚一枚デルマで修正していくのを見ながら、こっちはただただ怒られてました。約四時間。
何がダメだったのかというとですね。つまるところはパースの問題で、「消失点というものは無限の彼方にあるのだ」という原則です。どの原画マンもそれが描けていない。七郎さん曰くの「これでは消失点が窓のすぐ外にある」という状態になってしまっている。
三角定規と「無限の彼方の消失点」の意味が分かるためには、もうしばらくかかりそう。