フランス語の参考書としては定評のある(*しかし絶版)、E. Legrand
『Methode de stylistique francaise a l'usage des eleves』を手にする。(アクサン記号はメンドイので省きました)
読み始めてすぐに分かったのは、著者のルグラン氏が
「文学至上主義者」だということ。おそらく1930年代の本だと思うけど、いやー、いまやこんなことを言う人はなかなかいないだろうなぁ。
その辺が本国で再販されない理由かなとも思うけど、
「今の学生は文学を知らない!」という嘆き方にもどこか愛嬌があって、それは読んでいてぜんぜんイヤでない。氏の人徳と文学への愛情のなせるワザであろう。
本編はすごくしっかりしていて、フランス語を母語とする人たちのためのフランス語本だから、教え方がすごくシステマチック。さすが。
というのも、ちゃんとした文章をフランス語で書きたいのだがどうすれば良いか――とネイティヴの友人に訊いてみても、結局は
「たくさん読むことだ」というアドバイスになってしまう。
フランス語を母語とする人であればそれでいいだろうけど、自分は外国語としてフランス語を学んでいるので、ただ読めばいいかというと、それだけではおっつかない部分がある。
添削のとき
「文法的にここがこうなるのはなんでですか?」と尋ねても、こちらが納得できる理路整然とした答えはなかなかもらえない。そりゃそうなんだな、母語ではそこまで文法をつきつめないから。
ヘンな話、日本語の文法については、その友人の方がはるかに詳しいだろう。自分が逆の立場で日本語についての込み入った質問をされても、きっと答えられないと思う。
前置きが長くなったけど、そういったモヤモヤとした部分にきっちり
「こうしなさい」と光をあててくれるのが上記ルグラン氏の本で、これは本当にありがたい。
リライトの例として、ひとつの文に動詞が三回も用いられている、これはイカン。文の骨格となる動詞はひとつに絞り、あとは名詞を中心にしつつ、形容詞で輪郭をはっきりさせ、それを前置詞でつないで書けという。
これを聞いてはじめて、フランス語で色んな言葉をやたら名詞にする意味がやっと掴めた。動詞を一個に絞るから、他の動詞を名詞の形に置き換えるのが大事なんだね――と。
問題があるとすれば、こうしたことを誰も教えてくれないということだろうか。まぁ職人や勝負師の世界なら自分で悟るということにも意味があるだろうけど、語学の情報は共有したほうがいいんじゃないかなぁ。
西村牧夫先生が
「フランス語を教え始めてみると、自分が何も分かっていないことに気づいた」と著作の中で言われてるけど、それは本当に勇気ある発言だと思う。なかなかそういう風には言える人はいない。