寒色を使ったダークな表紙の
「エマ」第六巻は、表紙と内容がばっちりシンクロ、つまりかなりダークな仕上がりに(後味が悪い、ということではないが)。
今回の白眉は、やはりウィリアムから破談にしたいと告げられた時の、
涙のエレノアでしょう。男の読み方女の読み方がどうのと区別するのは好かないのだけれども、こっちからすると、もうエレノアがカワイソウでならないから、たのむやめてくれ、と作者に言いたくもなりますな。
希望の光ゼロだから。エレノアというキャラクターに感情移入して読んでる人は、特に今回ショックが大きいと思う。
この巻から、エレノアの父親である
キャンベル子爵が暗躍することになり、いわば恋仲を妨害する唯一の悪役であるはずなのだが、
こっちからするとそれほどイヤな人間には見えない。いままでに下賎な成り上がりもので不快な経験をしていれば、これぐらいはするのでないだろうか。妨害工作もごくストレートで、陰湿なものがないだけ、読みながら
「それほど悪い人でもないよな」と思ってしまう。人間のねじくれた根性のおぞましさには及びもつかないものがあるが、悪役をそのように描けない(描かない)のは、やはり作者である森薫(もりかおる)氏の知性がなせる業(わざ)だろうか。
それにしてもシリアスの合間合間に挟み込まれる、メイドである
ターシャ・アルマ・ポリーの掛け合いは、素直に笑えて、本当に面白い。ごくごく普通の演出、おっちょこちょいのターシャと噂話に眼がないポリーにしっかりもののアルマが普通にツッコむ、というただそれだけの話に、笑ってしまうのは何故だろうか。できればこういう軽いコメディで一冊書いて欲しい、とアンケート葉書にも書いてしまったが、これは本当に描いていただきたい。