映画館に入ると、まず館内が暗くなってそれから上映開始となるが、この方法を一番最初に考え出したのは、音楽家の
ワーグナーだという。
『ニーベルングの指輪』初演で、これをやった。
(リヒャルト・ワーグナー Richard Wagner)
「映画」論は腐るほどあるのに、
「映画館」論がないのがいつも不思議だった。映画の内容はこの100年随分変わったが、おそらく映画館自体は、その初期から殆ど変わっていないのではないだろうか―――と思っていたら、やはり変わっていないことを
『グラモフォン・フィルム・タイプライター』に教えられた。
ワーグナーの
『ニーベルングの指輪』初演時、観客に誰がいようと、まず完全な闇という状況を作り出し(19世紀だからこれをやるのはそう難しくない)、開演と同時に最先端の発明であるガス灯をつけ、開始からドラマの世界へ観客を引きずりこむ。この手法が、20世紀の映画にまで尾を引いて、21世紀の現在でもこのシステムをやっている。
そして
映画の撮影技術というのは、まったく
機関銃の歴史と重なる。写真について
「ショットが良くないね」なんて言い方をするが、
「ショット(shot)」といえば、もちろん
銃を撃つことでもある。そして写真を連続して撮影したものが
映画(film)なわけで、つまり
ショット(shot)を連続させる―――連続して弾丸を
発射(shot)する機関銃の方式が、カメラに採用されて、今の映画の原型がつくられた。
そういえばタイプライターを最初に作った
レミントンという会社も、実は
銃器メーカーだったりする。
「300年の平和がスイスに何をもたらした。ハト時計だけさ」という、
『第三の男』の有名なセリフがあるが、戦争によって技術が進むというのはうんざりするにしても、しかし事実である。それにしてもタイプライターや映画もその範疇に入るというのは、知らなんだ。実は
ティッシュ・ペーパーも戦争の副産物だというのはあまり知られていないが、これも事実である。