シャーロック・ホームズの全作品を渉猟(しょうりょう)し、推理小説との兼ね合いでいえば、アガサ・クリスティーに歩みを進めるのは間違いとは言えないまでも、オモシロクない。狙うべきはバルザックである。
(偕成社版の全集で読んだが、全十四巻はけっこうな分量だった)
バルザックには
『歩行の理論(le theorie de la demarche)』というのがあるぐらい―――つまり観相学にどっぷりつかった作家である。カフェに座って道行く人間のスケッチをしていく過程で出来上がったのが膨大な数の
『人間喜劇』シリーズだという。
「見る」という行為に異常にこだわったのが推理小説のはじまりだと考えると(ホームズはまさしく
「観察する」人間であった)、バルザックに行くしかないのである。
問題は数である。バルザックはアイディアに苦しむということがなかったらしくて―――つまり、とんでもない数の作品が残されている(90作を超えるとか)。いくら読むのが速いといっても、シャーロック・ホームズを全巻読了するのにも丸一週間かかったわけで、それを考えるとバルザック全集は気が重い―――ので、藤原書店の
『人間喜劇セレクション』を読んで済ませることにする(それにしたって相当な量だが)。バルザックだと
『ゴリオ爺さん』ぐらいしか読んでないしなぁ。