食べものの話をすれば当然飲みもの、飲む楽しみというのに移っていくので、これは飲む楽しみであって、飲んで大騒ぎするとか、酔った勢いでどうの、というおよそ話にならないこととはまるで違うので、酒といってすぐに思い浮かぶのは古今亭志ん生
(→注か行)の
「替わり目」である。
「えー、アタシぐらい酒に弱いものはいませんよ、いま酒屋の前を通ったらぷぅ~んときて酔っちゃったんですよォ、ソゥですかぁ、って聞いてる人が真っ赤んなっちゃった」
「なんかこゥ、摘むもんねぇかよゥ、」
「鼻かなんか摘むんだね」
「何かこう、ちょいっとやってぽりぽりっとやって、キューっといきゃいいんだから」
「何かったって、何にもないじゃないか、もう少し早いとアブラムシがいたんだけど」
そして飲むということについても、吉田健一は外せない。
酒がうまいのと、それに酔うのは決して別ものではない。私は酒を鑑賞するだけでなどということをいう人間は、それが上戸でない限り、ぶん殴ってやって差し支えないということはなくても、心理的にはまずそれに近い。
そしてやはり酒にまつわる氏の文章で最も素晴らしいのが「禁酒のおすすめ」で、こうはじまる。
酒が体に非常に悪いことは説明するまでもない。そう書くと、いかにも説明などすることはないような気が一時はするが、すこしたつと、何故その必要がないのか解からなくなるから、やはり説明しなければならない。まず第一に、という所まで来て、もう一度よく考えざるを得ないのが、どうして酒がそんなに体に悪いのかという大問題である。別に悪くはないことなど初めから解かっているのであるから、これはむずかしい問題で、そこに何とか理窟を付けなければ人に禁酒を勧めることが出来ないことを思うと、全くこれは困ったことになったという感じになって来る。
そして酒が飲めなくても、それはそれで全くかまわないことである。