ちょっとずつ味読するはずが、あまりにオモシロかったので久々に一気読み! 古永真一
『BD―第九の芸術』(未知谷)。
冒頭、思いのほか手厳しい口吻から入ったので、これで終始するのかなという一抹の不安はあったものの、それはまったくの杞憂だった。バンドデシネを読み解く文化史の一著という感じ。
中でも気になったのが、
「『大人』の文化を誇るフランス」(p. 38)という記述。フランスにおける
「大人の文化」というのが、論述の柱になっていた。
これがある種、規定の事実としてあるみたいで、その辺、同地に行くと身にしみて感じるところなのであろう。自分の知っている範囲で言えば、フランスの友人たちのギャラントリー(女性への礼儀)なんかも、その一部だろうか。
そうした大人文化と、子供のものとして認知されていたBDが、大のBDファン(!)だったという、ミッテラン大統領の色々の政策で、
「第九の芸術」としての位置が固まったと。
以前お伺いしたBD作家氏も、ご自分の認識として、BDは芸術ということをしきりにおっしゃっていた。
あんまり頻繁に
「芸術」という言葉が出てくるので、マンガ好きの日本人のこちらとしては、そんなものかな――と思ったりもした。以前、夏目房之介氏がドミニク氏と会ったエピソードでも、そんな話があったっけ(『マンガ世界戦略』)。
ただ今回、
「フランスでは芸術が生活に馴染んでいる」(p. 252)という記述があって、これは目からウロコだった。
先日のティエリ・グルンステン氏のご講演を聞いても、日仏でお互いの違和感を提示する段階という感じがしたけれど、これは畢竟、この芸術観の違いではないだろうか。
フランス語のl’artは日本語の芸術とは違うものだろうし、この辺、日本語の
「芸術」という言葉がいつからあるのか、調べてみるとオモシロイかもしれない。今橋映子氏の著作にあった気もするけど、忘れてしまったなー。
BDだけをガチガチに論じたというより、先のミッテラン大統領からジョルジュ・バタイユまで、幅広い話柄が並んでいて、その文化史のオモシロさに、引き込まれたんだろうと思う。
そうそう、文化史といえば、言及される書物がすごい。ジュディス・ウェクスラー、ワイリー・サイファー、マーティン・ジェイ、高橋康也にB・S・ジョンソン。
タカヤマ学派として思わずバンザイ!と叫びたくなるけど、学派にもぜひぜひオススメの一冊でした。