夏目漱石の『こころ』、推理小説、もしくはサスペンス的な「このさきどうなるんだろう?」という引きが素晴らしく、グイグイと読み進めた。
第3部、先生の回想になると、急に心理小説の色合いが濃くなり、頭の中でグルグルし続けている感じからペースダウン、プルーストを連想しつつ、ようやく読了。
で、読み終わってみると、夏目漱石とプルーストが、頭の中でグルグル系の作家(*えらい大雑把なまとめ)だとすると、その違いは「笑い」にあるのかな、なんて。
コメディというわけじゃないけど、プルーストさんは、自分が延々と頭の中でグルグルしてることに気づいていて、それを笑うような視点が感じられる。平たく言えば「オレなにやってんだろう」観というか。
漱石さん、もしくは『こころ』には、そうしたグルグルを外から眺めて笑う、ように雰囲気は感じなかったな。前に由良君美さんが、漱石作品を評して「メタ性がない」と言っていたのは、こういうことなのか。
あとは明治という時代の節目なのか、作中にもしきりに「真面目」という言葉が出てくるし、それは現代風の「まじめ」とは相当意味合いが違うんだろう。
本当に久々に読み返してみて、再読というよりむしろ初読が正しいと思うけど、以前は気づかなかった明治天皇の崩御や乃木大将のくだりなど、明治の時代感と、それをみんなが共有してたんだなと、作品から感じ取った次第。
今は芥川の書簡も読んでいるところだから、その辺り、あらためて着目してみたい。『こころ』面白かったなー。