1920年代からシュールレアリスムがはやるが、これは要するに
「見えるものがリアルではない!」という宣言である。
(ルネ・マグリット 『人間の条件』)
18世紀以来、
「見えるものが分かるもの」という価値観が席巻し、
「見えないものは」なんとしてでも
「見える」ようにして理解しようとしてきた――その際たるものが解剖と推理小説であろう。
(レンブラント 『トゥルプ博士の解剖学講義』)
ポーからドイルへと、とにかく
「見えるものを積み重ねていけばリアルにたどり着く!」という思想が、推理小説の命脈をたもっていたわけだ。それが1920年代を迎え、シュールレアリスムが登場したことにより、
「見えるものがリアルなわけではない」ということに気づいてしまう。その辺で若きアガサ・クリスティーが登場、ヴァン・ダインの
『僧正殺人事件』が出る。
そこで
「見えないものがリアルだ」という風に、パラダイムの転換をはかったことが、
ロザリンド・ウィリアムズ『地下世界』(平凡社)に縷説(るせつ)されている。びっくりするぐらいオモシロイので、これはどうしたことだろうと思って調べると、原書の版元はやはりMIT出版局であった。おそるべし、MIT。
(ブッ飛ぶほどかっこいいブックデザインが目白押しのMIT出版局。由良君美氏の言う「脱領域」を実践しつづける最高にスリリングな版元である。ここの本にハマると、ほかの洋書を買わなくなるからコワイ)