通りを歩いていると、とんでもない名前の居酒屋を見つける。その店名がなんと
『重力の虹』。トマス・ピンチョン!
最近読んでヒットだったのは、小林章夫
『おどる民だます国 英国南海泡沫事件顛末記』(千倉書房)。
種村季弘氏が言及していた詐欺師ジョン・ローに端を発する大混乱。金融史みたいなものですな。
英文学から文化史へとアプローチしていた小林氏の著作だけに、読みやすいし、面白い。タカヤマ文化史チャートが頭にセットされていると、より分かりやすい。
「スパイ」としてのデフォーへの言及もあるし、
「プロパガンダ・マシン」として各方面の文筆家(スウィフトも!)を集めてたお偉いさんの話など、非常に読み応えがある。
英国文学はいっときハマりすぎたせいもあって、今はちょっと食傷気味なのだけど、こういう文化史という切り口からの英文学史はやはり良いですな。
で、英文学に食傷して、仏文学でいま読んでいるのがスタンダール(でも英訳)。
「なんでもひがんで考えてみることから生じる情熱」とは、まったくその通りだな――という内容がビシビシ出てきて、これもここまで徹底すると、マイナスのヒーローという感じがする。
ただ一番読んでいて感心するのは、スコット・モンクリーフ氏の英訳。最初から英語の小説なんじゃないの?と思うほど、すばらしい訳文。すげー。
『失われた時を求めて』の訳者として名前を記憶していたんだけど、実際、すごい力量の持ち主だったんだなぁ――と。
英訳のタイトルも、
『Remembrance of Things Past』だもんね。最近出てるらしい新しいのは
『In Search of Lost Time』とかいう題名で、その時点で
「フランス語を置き換えただけじゃん!」とガックリする。
それにしても、くだんの居酒屋はなんでまたそんな店名にしたのか。
「なんとなく」ではゼッタイ出てこない名前でしょう、これは。
完全自炊派のこちらとしてはあんま行く用事もないだろうけど、なにか機縁があったら聞いてみたい。案外、小説のタイトルを屋号にしてる店とかってけっこうあるのかな? 居酒屋ではないにしても。